心不全とは
心不全は、なんらかの心臓機能障害、すなわち、心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果、呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し、それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群と定義されます*。つまり単一の疾患名ではなく、心臓の機能が低下し、全身の組織の代謝に対して必要量の血液を送ることができなくなった状態のことをいいます。
- *日本循環器学会/日本心不全学会.2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療.https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Tsutsui.pdf.2024年8月閲覧
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心不全の症状
- ・ 呼吸困難、息切れ、動悸、起坐呼吸
- ・ 易疲労感、脱力感
- ・ 夜間不眠
- ・ 下肢浮腫
- ・ 腹部膨満感または圧痛、食欲不振
- ・ ピンク色・血性泡沫状喀痰
- ・ 夜間頻尿
- ・ 意識障害、錯乱
- ・ もの忘れ
しかし、心機能が低下していても無症候のことは多々あり、また心不全による疲労や息切れといった症状を、加齢によるものだと思っている患者さんもいます。
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心不全の原因となる代表的な疾患
- ・ 虚血性心疾患
- ・ 心筋症
- ・ 心臓弁膜症
- ・ 不整脈
- ・ 高血圧
- ・ 先天性心疾患(心房中隔欠損、心室中隔欠損など)
- ・ その他(心臓サルコイドーシス、心アミロイドーシス、心タンポナーデ、収縮性心膜炎、肺動脈性高血圧症、等)
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心不全をきたしうる他の疾患および病態
- ・ 全身性の内分泌・代謝疾患(糖尿病、甲状腺機能異常、クッシング症候群、副腎不全、成長ホルモン過剰分泌等)
- ・ 栄養障害(ビタミンB1、カルニチン、セレニウム等の欠乏症等)
- ・ 薬剤(β遮断薬、カルシウム拮抗薬、抗不整脈薬、心毒性のある薬剤等)
- ・ 化学物質(アルコール、コカイン、水銀、コバルト、砒素等)
- ・ その他(シャーガス病、HIV感染症等)
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心不全の分類
発症時のLVEF:left ventricular ejection fraction(左室駆出率)に基づく分類が多用されます。
- ・ HFrEF:heart failure with reduced ejection fraction(LVEFの低下した心不全:LVEF <40%)
拡張型心筋症、心筋梗塞後など、左室収縮機能の低下に基づく心不全。 - ・ HFpEF:heart failure with preserved ejection fraction(LVEFの保たれた心不全:LVEF ≧50%)
左室拡張機能の障害に基づく心不全で、HFrEFに比べて高齢、女性、高血圧合併が多い。 - ・ HFmrEF:heart failure with mid-range ejection fraction(LVEFが軽度低下した心不全: 40%≦ LVEF <50%)
境界型心不全で、治療選択は個々の病態に応じて判断する。
- ・ HFrEF:heart failure with reduced ejection fraction(LVEFの低下した心不全:LVEF <40%)
これらに加え、HFmrEF:heart failure with mid-range ejection fraction(LVEFが軽度低下した心不全)や、LVEFの経時的変化による分類も用いられます。
心不全の重症度
NYHA:New York Heart Association(ニューヨーク心臓協会)心機能分類などを用います。
程度 | クラス | 説明 |
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軽度 | クラス I | 心疾患はあるが身体活動に制限はない。 日常的な身体活動では著しい疲労、動悸、呼吸困難または狭心痛を生じない。 |
クラス II | 軽度ないし中等度の身体活動の制限がある。 安静時には無症状。日常的な身体活動で疲労、動悸、呼吸困難あるいは狭心痛を生じる。 |
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中等度 | クラス III | 高度な身体活動の制限がある。 安静時には無症状。日常的な身体活動以下の労作で疲労、動悸、呼吸困難あるいは狭心痛を生じる。 |
重度 | クラス IV | 心疾患のためいかなる身体活動も制限される。 心不全症状や狭心痛が安静時にも存在する。わずかな労作でこれらの症状は増悪する。 |
慢性心不全の経過
慢性心不全は,治療の経過において急性増悪を繰り返すことが多く、再入院率も高くなります。急性増悪によって、身体機能は急激に低下します。治療効果が得られ、急性期を脱すると身体機能は部分的に回復しますが、自覚症状が改善したとしても完全に回復することはほとんどなく、次の急性増悪の際には、さらに身体機能は低下します。このように、慢性心不全は急性期と慢性期を繰り返しながら徐々に全身状態が悪化していくという経過をとります。