医師の声

末永 祐哉 先生

富山大学附属病院
循環器内科
片岡 直也 先生

1.はじめに

  皆さんは、心臓再同期療法(CRT)と聞いて、何を感じますか?
  難治性心不全治療の最後の砦として、悲壮な覚悟で臨むものですか?それとも、効かない症例(いわゆるノンレスポンダー)が多いので、あまり期待していないでしょうか?または、推奨基準が複雑すぎて、適応判断しづらいのが本音ですか?
  CRTは、慢性心不全の伝導障害を改善し、左室駆出率(left ventricular ejection fraction:LVEF)や自覚症状、予後の改善をもたらす強力な心不全非薬物療法です。一方で、病状が進行し過ぎると有効性が低下するため、適切な時期に導入する必要があります。これは、他の心不全非薬物療法においても共通の概念です。一方、CRT以外の治療法と異なるのは、適応基準がLVEFやQRS幅、その形態など多岐にわたり、複雑であるという点ではないでしょうか?この“複雑さ”を紐解き、身近な治療選択肢の一つとしてCRTを捉え直す、というのが本稿の狙いです。

2.ガイドラインを紐解く

  • (1) 左脚ブロック
    幅広いQRS幅(150ms以上)を呈する左脚ブロックに対し、CRTの有効性を疑う声は少ないと思います。問題は、QRS幅が120 – 149msの“mid–range QRS”症例です。各国ガイドライン間で違いはありますが、2024年JCS/JHRSガイドラインフォーカスアップデート版(以降、ガイドライン)では、左脚ブロック型のmid–range QRSはclass IIa以上で植込みが推奨されました。QRS幅は体格や左室拡張末期容積で補正した値に意味があり、我が国を含むアジア人や女性では、より狭いQRS幅でも有効例が多い事に言及された事は注目に値します。
  • (2) 非左脚ブロック
    非左脚ブロックには効かない、そう感じている方も多いのではないでしょうか?事実、左室側壁の電気的遅延を改善する機器であるCRTは、左脚の電気的異常が無ければ原理的に有効ではありません。しかし重要な事は、非左脚ブロック(非特異的心室内伝導障害)の中に左脚前肢または後枝ブロックが隠れている点です。非特異的心室内伝導障害かつQRS幅が150ms以上の症例では、特に女性において、CRT-Dによる死亡率減少効果が報告されており1)、そのような症例ではCRTを考慮すべきです。一方、mid-range QRSの非左脚ブロックに対する有効率向上は今後の課題です(ガイドライン上class IIb)。
  • (3) 房室ブロック(PR延長を含む)
    非左脚ブロックと共に注意が必要なのが、房室ブロックです。右室心尖部刺激は、刺激伝導系を介さない興奮伝搬となるため伝導速度が遅く、左脚ブロックと同様のQRS幅拡大を引き起こします。そのためCRTが有効ですが、LVEFのカットオフ値がその他のQRS波形におけるCRTの適応基準と異なる点に注意してください。多くのQRS波形におけるCRTの適応基準がLVEF 35%以下であるのに対し、房室ブロックでは50%以下です。
    また、高度な第1度房室ブロックにおいてもCRTを検討する必要があります。根拠となるBLOCK HF試験には、第1度房室ブロックが含まれています。高度な房室伝導遅延が存在する場合、QRS幅150ms以下とそれ以上で、CRTの有効性に差が無い事が知られています。その理由は、左室流入血流波形(E波とA波)の最適化にあると考えられます。すなわち、顕著な第1度房室ブロックではA波が1拍前のE波終末と癒合してしまうため、CRTによって房室弁の開放タイミングを正常化する事が血行動態的に有利に働くのです。 これらを端的にまとめたのが、紹介するスクリーニングフロー(図1)です。特徴は、QRS幅や波形、LVEFなどの細かい条件を可能な限り省略した点です。
    心筋症の分類
    ポイント1:LVEFの低下した慢性心不全にはβ遮断薬増量が治療の基本であり、徐脈や房室伝導障害で増量が困難な場合は心臓植込み型電気デバイスを考慮
    ポイント2:治療3か月後にはLVEFを再検
    ポイント3:LVEF 50%に到達していない場合は心電図を評価
    ポイント4:高度な房室伝導障害があればCRTを考慮
    ポイント5:LVEF 35%以下かつQRS幅が120ms以上であればCRT実施医へ相談

    ここで、CRTはあくまで心不全非薬物治療の一手段に過ぎず、特別視しない事が重要だと強調しておきます。

3.CRTレスポンダー、を再定義する

近年、CRTへの反応を再定義する機運が高まっています。きっかけは、従来のレスポンダー定義を満たさない、いわゆる“ノンレスポンダー”の中で、慢性期に心機能が悪化しない症例(スタビライザー)は、レスポンダーと同等に予後が良いと報告された事です2)。これは、進行性疾患である心不全が悪化しない事を重要視する捉え方で、従来の定義を満たすレスポンダー 55%に、スタビライザー 20%を合わせ、75%が有効例であったと報告されています2)(図2)。6割しか効かないと言われていたCRT登場初期に比べると、随分と印象が変わりますね。

心筋症の分類

4.CRT効果を最大化するための進歩

そうは言っても、植込み後に病状が進行してしまう症例が一定数存在するのは確かです。原因は様々ですが、介入しうる点として、①房室伝導時間(心室刺激タイミング)、②両室刺激率、③左室リードの位置、などが知られています。近年では、これら諸課題に対応する様々な研究・開発がなされています。

  • (1) 設定・機能
    房室伝導時間の調整は、左室流入血流波形を最適化することで血行動態的に有利に働きます。一方、房室伝導が保たれている場合は、自己房室伝導時間は刻々と変化し、最適な心室刺激タイミングは変動します。その問題を解決するために有効なのが“AdaptivCRT”機能です。これは、自己右脚伝導を温存して左室のみ刺激する機能ですが、特に左室単独刺激率が高い(85%以上)症例で効果が高い事が報告されています3)。また、有効な心室刺激を行っているかを評価するのが“EffectivCRT診断機能”です。これにより、心房細動頻脈中の有効な左室刺激率を増やしたり、左室の電気的遅延を明らかにして刺激タイミングの調整を行ったりする事が可能になると期待されています。
  • (2) 手技
    左室リードの留置部位は重要です。左室心尖部付近からの刺激は有効性が低下するため避けるべき、というのは広く合意が得られた意見です。また、興奮伝搬の最遅延部位から刺激する事で効果を最大化できるという仮説に基づき、体表面QRS波の開始から左室リード電極で記録される心内電位までの時間差(Q-LV)を測定し、最もQ-LVが長い部位へ留置する試みが始まっています。その際、任意の位置へリードを固定するため、サイドヘリックス付き4極リード(Attain Stability Quad:ASQ)が有効な可能性があります。

5.おわりに

さて、ここでもう一度最初の質問をします。 CRTは最後の砦ですか?ノンレスポンダーが多くて期待できない機器ですか?適応が複雑ですか?ここまで読んでいただいた皆様は、もう全てが誤りである事がお分かりですね。そう、CRTの導入検討タイミングは決まっており(スクリーニングフロー参照)、EF低下を進行させないこと(スタビライズド)が重要でした。心不全は、CRTだけで完結する治療でもなければ、CRTが欠けてもいけない病態です。本稿が、心不全治療を時系列で捉え、ステージ毎に最適解を選択し、一人でも多くの心不全患者を救う治療に繋がる事ができれば幸いです。

参考文献:

  • 1) Zusterzeel R, Spatz ES, Curtis JP, Sanders WE, Selzman KA, Piña IL, Bao H, Ponirakis A, Varosy PD, Masoudi FA, Caños DA, Strauss DG. Cardiac resynchronization therapy in women versus men: observational comparative effectiveness study from the National Cardiovascular Data Registry. Circ Cardiovasc Qual Outcomes. 2015 Mar;8(2 Suppl 1):S4-11.
  • 2) Gold MR, Rickard J, Daubert JC, Zimmerman P, Linde C. Redefining the Classifications of Response to Cardiac Resynchronization Therapy: Results From the REVERSE Study. JACC Clin Electrophysiol. 2021 Jul;7(7):871-880.
  • 3) Wilkoff BL, Filippatos G, Leclercq C, Gold MR, Hersi AS, Kusano K, Mullens W, Felker GM, Kantipudi C, El-Chami MF, Essebag V, Pierre B, Philippon F, Perez-Gil F, Chung ES, Sotomonte J, Tung S, Singh B, Bozorgnia B, Goel S, Ebert HH, Varma N, Quan KJ, Salerno F, Gerritse B, van Wel J, Schaber DE, Fagan DH, Birnie D; AdaptResponse investigators. Adaptive versus conventional cardiac resynchronisation therapy in patients with heart failure (AdaptResponse): a global, prospective, randomised controlled trial. Lancet. 2023 Sep 30;402(10408):1147-1157.

販売名:アテイン スタビリティリード
医療機器承認番号:30200BZX00063000

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