
医師の声

小倉記念病院
循環器内科
福永 真人 先生
心臓突然死リスクとデバイスの効果
本邦では年間約9万人が心臓突然死しており、その中でも心室細動が主な原因の1つとされている。心肺蘇生法の重要な処置として胸骨圧迫と電気ショックがあり、屋外では自動体外式除細動器(AED: Automated External Defibrillator)を使用することが救命率の向上に寄与してきた。心室細動を始めとした“致死性心室性不整脈”のハイリスク患者、又は既往のある患者に対して治療を行う植込み型デバイスとして植込み型除細動器(ICD: Implantable Cardioverter Defibrillator)がある。
ICDの歴史はペースメーカに比べて浅く、1980年に人体への世界初の植込みがなされたものの、初期のICDはサイズが大きく腹部への植込みを余儀無くされていた。現在では大きさも前胸部への植込みが可能となり、リードを胸骨上に留置する皮下植込み型除細動器(S-ICD: Subcutaneous Implantable Cardioverter Defibrillator)や、リードを胸骨下に留置する血管外植込み型除細動器(EV-ICD: ExtraVascular Implantable Cardioverter Defibrillator)という選択肢も増えている。
また、左脚ブロックを始めとする刺激伝導系の障害や右室リードのペーシングに依存した低左心機能患者では、左室内の非同期性(Dyssynchrony)により、心不全増悪をきたすことがある。左室内同期を目指して冠静脈洞の枝に左室リードを留置し、両室ペーシングとすることで心機能の改善が可能となる。これを心臓再同期療法(CRT: Cardiac Resynchronization Therapy)と呼び、ペースメーカ機能のみの場合はCRT-P、除細動機能付きの場合はCRT-Dとなり、多くの症例では突然死予防の機能も必要とするためCRT-Dの比率が多い。昨今は刺激伝導系ペーシング、特に左脚領域ペーシングが注目されており、それと左室リードとを組み合わせた手技の適応についても議論がなされている。
以下にICD・CRTについての現状のエビデンス・ガイドラインから議論の分かれるところを中心に概説する。
ICDの一次予防適応
ICDの植込み適応としては、一般的に二次予防の推奨レベルは一次予防適応よりも高く、また一次予防の中では基礎心疾患によって推奨レベルが異なることが重要である。以下にICDの一次予防適応について解説する。虚血性心疾患では一般的に非虚血性心疾患よりもICDの有用性が高く、左室駆出率(LVEF: Left Ventricular Ejection Fraction) 35%以下かつニューヨーク心臓協会(NYHA: New York Heart Association)心機能分類 Ⅱ以上の患者において、非持続性心室頻拍(NSVT: Non-sustained Ventricular Tachycardia)があればclassⅠ, 認めなくてもclass Ⅱaでの適応である。またこの前提として血行再建後90日以上かつ十分な薬物療法を行っていることが必要になっている。このため、急性期にICDの必要性は判断しないものの、慢性期の心機能に応じてICDを必要とするかどうかの橋渡しとして、ベスト型の着用型自動除細動器(WCD: Wearable Cardioverter Defibrillator)が3ヶ月間まで保険適応されている。
非虚血性心疾患の一次予防では、DANISH試験の結果として近年の十分に抗心不全薬が導入可能であった患者群(ACE-I/ARB 96-97%, β-blocker 92%)では、ICDの有無のよる全死亡に有意差は認めなかったという報告がある1)。但し、心臓突然死に関してはICD群においてHR 0.50 (95% CI, 0.31-0.82)であり、ICDの必要性は更なる個別化が求められると考えられる。個別化の方法としては心臓MRIによる遅延造影を参考とすることが多い。本試験ではCRTは58%の患者に用いられており、平均観察期間5年での心臓突然死は4.3% vs 8.2%と今までの報告に比べて低く、近年の心不全に対する薬剤治療の進化(Fantastic Four)により、今後更に心臓突然死の割合が低くなる可能性も考えられる。また、非虚血性心疾患においては、一括りにせず肥大型心筋症・心サルコイドーシス・遺伝性不整脈などの背景疾患によって、その適応と管理が異なることを認識する必要がある。詳細に関しては、成書またはガイドラインなどで確認頂きたい。
一次予防では、植込み時の年齢も重要なファクターになる。特に高齢者においては競合リスク(competing risk)としての非心臓死の割合が高くなるため、上記のDANISH試験におけるICDの効果の均衡点は77歳となっている。
CRTは突然死予防効果があるのか?
まずは心不全改善効果に関するCRTの効果を見ていきたい。CRTの効果は古典的にはQRS幅130msec以上のNYHA Ⅲ, Ⅳの患者における効果が確立された2)後に、更なる低リスク、即ちQRS幅 120msec以上、NYHA Ⅰ,Ⅱの患者にも試されているが、効果は徐々に減じている3)。また、予後改善効果においては高齢者よりも若年者、虚血性心疾患よりも非虚血性心疾患、男性よりも女性の方が効果が高いということが一般的である4)。
突然死予防効果に関しては、薬剤治療群とCRT-Pを比較したCARE-HF試験 (NYHA Ⅲ 93%, LVEF 25%, QRS幅 160msec)では全死亡のみならず、心臓突然死も減少した5)。それならばCRT-PとCRT-Dを比較するとCRT-Dの方が良いと考えるのが一般的ではあるが、CRT-PとCRT-Dを直接比較したRCTは近年なく、レジストリデータでは選択バイアスが排除できない。また、CRT-D群では心臓突然死はICDによって減少しても、その後心不全死することが避けられないのであれば、ICDの生命予後に対する効果としては小さくなる。また、低左心機能に対する治療にてLVEFが改善した症例はLVEFが改善した心不全(HFrecEF: Heart Failure with Recovered Ejection Fraction)と呼び、LVEFが低下したままの症例に比べ予後が良好であることが示されている6)。但し、HFrecEFでは多種多様な背景からなる集団であり、そのマネージメントには十分なデータや管理の方針についてのコンセンサスがないため注意が必要である。CRTデバイス治療においては植込み時点で慢性期にLVEFが改善するかは不明であること、仮にLVEFの改善が認められた場合でもICD機能を外すことが推奨されるエビデンスはないことに注意が必要である。
CRT-PとCRT-Dの比較においては、一次予防なのか二次予防なのか、CRTの効果(LVEFの改善)が期待できるコホートなのか、植込み時の年齢を加味して、ICD機能が付くことの負の側面(デバイスの大きさ、電池消耗、デバイス不適切作動のリスクなど)を考慮し、患者さんと共同意思決定(SDM: Shared decision making)を行なっていくことが肝要である。
参考文献:
- 1) Defibrillator Implantation in Patients with Nonischemic Systolic Heart Failure N Engl J Med. 2016 Sep 29;375(13):1221-30.
- 2) Cardiac resynchronization in chronic heart failure N Engl J Med. 2002 Jun 13;346(24):1845-53.
- 3) Randomized trial of cardiac resynchronization in mildly symptomatic heart failure patients and in asymptomatic patients with left ventricular dysfunction and previous heart failure symptoms J Am Coll Cardiol. 2008 Dec 2;52(23):1834-1843.
- 4) Probability and magnitude of response to cardiac resynchronization therapy according to QRS duration and gender in nonischemic cardiomyopathy and LBBB Heart Rhythm. 2014 Jul;11(7):1139-47.
- 5) The effect of cardiac resynchronization on morbidity and mortality in heart failure N Engl J Med. 2005 Apr 14;352(15):1539-49.
- 6) Heart Failure With Recovered Left Ventricular Ejection Fraction: JACC Scientific Expert Panel J Am Coll Cardiol. 2020 Aug 11;76(6):719-734.